2017年1月17日火曜日

県の奨学金を受けるのはどうでしょうか?

学生のかたや研修医の先生方からの質問だけではなく、blogを通して親御さんからもご質問を頂きましたので、紹介させていただきます。

Q:
 現在息子が大学医学部の○年生です。今回、県の奨学金制度へ申請したいと思っております。具体的には、奨学金の返済について、県内での初期研修や一定期間の間、県の指定する地域や病院で勤務すれば免除されるという制度です。私たち親の立場としましては、奨学金を貸与できれば非常に助かるのですが、本人も将来どういった方向に進みたいのかも決めていないようで、奨学金のために本人の選択肢を限定してしまうとかわいそうだなという気持ちもあります。  私(親)は医療関係者ではないためよくわかりませんが、そもそも奨学金を免除してまで医師を確保したいということは、なり手がいないということでしょうし、あまり積極的に活用するものではないのかなという気持ちもあります。 もし奨学金の貸与を受けて、本人が義務を果たさなかった場合、年○○%の利息を付して一括返済しなければなりません。最初の義務は、県内で初期研修を受けることなので、その時点で他県へ行きたいとなった場合、金額を一括返済する必要が出てきます。さすがに一括返済というのは厳しいため、ひとつの方法として考えているのが、とりあえず奨学金の貸与を受けてそのうち半分を私たち親が貯金しておき、万一義務を果たせないとなった場合は、本人に半分の金額を一括返済するということを考えています。いかがでしょうか。 医師の世界のことは全くわからず、相談できる人もいないので、アドバイスをいただけましたら有難いです。よろしくお願いいたします。

A:
  奨学金についてですが、ご指摘の通り医師不足のところでは各県が勧めています。また、医師不足のところで働くためやりがいと感じるか義務と感じるかは本人次第だと思います。借りる金額はtotalにすると500万円前後の大きな額ではあります。
  ただし、医師になって最初の10年でその後の医師としてのスタイルは決まるとも思います。限られた県内で研修をしてその後も県内をローテーションすることで満足できそうであればいいです。また、私のように地域医療に興味があるのであれば、さらにプラスに働きます。でも、そうでない場合は、少し辛いかもしれません。
    提案としては、
 
①実際に奨学金を借りる予定の県で将来派遣されうるだろう病院を今のうちに数カ所見学に行く

  その時に現在働いている医師像が自分にfitするのであれば奨学金を受けてもメリットはあると思います。

②親御さんとお子様で契約を結ぶ(親御様としてはとても大変ですが・・・)
 
 医師になって、初期研修が終了すれば年収は600-800万ぐらいになると思います。また、専門医を取る頃(6-8年目)には少なくても1000万ぐらい(額面ですので、税金でかなり引かれますが…)にはなります。お子様が働いてから親御さんに返金することは、苦ではないはずです。
学生の間の500万円前後で自分の医師人生にマイナスに働く要素が強くあると感じるのであれば、奨学金にメリットはあまりありません。



 地域への興味がないうちに借りるのは得策ではないかもしれません。県としても返金してもらうことよりは、医師を1人確保する方がよっぽど意味のあることですので、あまり裏切り行為はお勧めしません。後々、何かのご縁で借りていた県で働くとなってもあまりいいイメージはないと思います。

    1番いいのは、いまの学生のうちに色々なところで働いている医師の現場を旅行がてらでもいいので、みて回ることがいいと思います。特に身内に医師がいない場合は、テレビなどのイメージしかないと思います。現場の医師の仕事を、大学ではないところの医師の働きを見てもらうのがいいと思います。知識がなくても誰も何も言いません。みんなわかってるからです。医学生が勉強をしていないことを笑
   ただ今のフレッシュな学生のうちに現時点でのロールモデルが見つかると大学での講義にも少し身が入るはずです。大学に入ってしまうと多くの学生はだれてしまいます。日々のクラブ活動やバイトに追われて、学生生活を満喫と言いながら、将来の医師としてのビジョンを見失いがちです。 
  お忙しいかもしれませんが、色々な診療所や病院へ見学に行くことをお勧めします。その中で地域でもいいかも?と思たら、奨学金を受けるのがベターだと思います。離島や僻地といっても今の時代はインターネットで全世界に繋がっていますのでスタンダードな勉強はどこでもできます。

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いろいろなご家庭がありますので、一つの意見としてです。学生のときの毎月8-10万円というのは、とても大きい額です。学生のときにしかできないこともあると思います。時間はあるけどお金がない。これは、どの学部でも一緒であり、学生みんなの悩みです。
 時間とお金の価値をどのように考えるか。
また、実際の学生さんの進路希望や御家族の経済事情などもあります。
一つの意見として参考にして下さい。



2016年12月8日木曜日

ただ、忙しい(症例が多い)だけでダメ

研修病院を選ぶときに、

「忙しい病院(症例が多い病院)で、バリバリやりたいです!」

と答える学生さんがおられます。
確かに、以前も書きましたが症例数がある程度なければ、経験値も上がりませんし、希な疾患にも遭遇できないかもしれません。トレーニングするには、症例数はある程度必要です。ただ、病院を選択する際に見て欲しいのは以下の点です

・feedbackをしっかりとしてくれる上級医がいるか。(スタッフ+3年目以降の後期研修医)
・問題にぶち当たったときに、しっかりと研修医を守ってくれるスタッフがいるか。
・事務方のサポートもあるのか。

見学に行った学生さんから見れば、
初期研修1年目の医師や2年目の医師が患者さんをいろいろと診察し、方針決定までしているのはとてもかっこよく見えるものです。
ただし、その奥にスタッフからのfeedbackや過保護になりすぎない見守りがあるかどうかも
見て下さい。

質問①「ポリクリを回って進みたいと思っていた診療科が変わった」

「元々消化器内科志望であったが、入局後のことや仕事の裁量のきき具合から 
皮膚科に行った方が自分としては幸せな人生が送れるのではないかと考えるようにな 
った。一方で裁量が聞く分、元々憧れていた命を預かる責任感は薄くなるのではないか
ということに対して後悔しないだろうかという不安がある。shinya先生の実感として、あるいは周りの先生のキャリア選択を見て、率直な意見を聞かせて欲しい。」

blogを見て下さっている学生さんからこのような質問を頂きました。
ありがとうございます。
学生にはとても多い悩みだと思います。私自身も、入学当初は小児科希望でしたが、学生生活の間に家庭医、血液内科、心臓血管外科etcいろいろ悩みました。
 学生のうちはおおおかたそういうものだと思います。具体的なイメージや情報がないのですから、ポリクリで一部を触れてみてさらに変わるものだと思います。

私は以下のようにお答えいたしました。(あくまで、私見です。)


kさん:実習で皮膚科を回った際に、
 ・皮膚初見や病理から推理する診療が楽しそう
 ・人員が多い分医局で回す仕事に余裕があり雰囲気がいい
 ・3年目から研究が始められ
 ・フルタイムから離れていく女性医師が多いので男性医師としてはキャリアのチャンスを掴みやすい
 ・留学もできる
 ・仕事も裁量がきく
と「おいしい」話をたくさん聞いて魅力を感じるようになりました。
一方消化器内科医には憧れはあったのですが、
 ・仕事はしんどそう
 ・医局の医師が多く競争が激しい
 ・医局の雰囲気がとても悪い
 などハード面での悩みが出てきました。

:大学で将来仕事をすることを念頭に置いているという点では、皮膚科の先生がおっしゃるようにキャリアではチャンスがつかみやすいかもしれません。競争率という点でも。また、皮膚科も癌があるわけで、命に関わる仕事というもともとの志にも通ずるかもしれません。
 私からの視点での皮膚科と消化器内科の特徴を挙げてみようと思います。
消化器内科
 ・上部・下部消化管を中心としたカメラをする
 ・肝臓/胆道/膵臓といったERCPやエコーも使った腫瘍の治療・肝ウイルス治療を行う
 ・「内科」といわれる中でも、循環器同様に手技があるため外科的要素があり、緊急治療(上部消化管出血・胆管炎)も対応が出来る、腫瘍に対しても局所治療が出来る
 ・生活習慣に対して介入が出来る(アルコール性肝炎、脂肪肝、胃潰瘍、GERD)
 ・その他に遺伝的なもの、膠原病と絡む疾患がときどきあって、医学的興味がそそられる
 ・病棟業務が必然的に多くなることがある。緊急で呼ばれることがある
皮膚科
 ・アレルギー疾患が多い
 ・治療はほとんどステロイドが多い(病理的には区別がついても結局のところという点で・・・)
 ・腫瘍もある。
 ・全身疾患のとっかかりとなることがある(内科系の癌や膠原病など)
 ・大学で勤務をしない限り、希な疾患が集まることは少ない
 ・病棟業務は少ない。緊急での呼び出しは少ない
 ・一般病院(規模の小さい病院)で当直をすることになると外科系当直をする
 
ざっと挙げるとこんなところでしょうか。

「幸せな人生が送れるのではないか」

この基準を自分でどこにおくかだと思います。
何をすることで自分が「幸せだ!」と感じることが出来るかだと思います。 
ずっと働きづめがかっこいいとは思いませんし、土日に病院に行かない医師はダメな医者
とも思いません。やることをしっかりやって、目の患者さんに
「ありがとうございます」
といわれる医師。それだけでなくコメディカルや他の科の医師から
「ありがとう」といわれる医師が素敵な医師だと思います。


おそらく、ポリクリや数カ所の病院で消化器内科や皮膚科を見られただけではないでしょうか。雰囲気のいい悪いは、施設が変われば変わります。
 研修医になられて、いろいろな科を回ると思います。2年目のギリギリまで悩んでも私は悪くないと思います。
いろいろな科で真剣に取り組んでみて下さい。学生のときとは違う視点でそれぞれの科のことが見えてくると思います。そこで決めたらいいと思います。また、皮膚科に決める!
となったら尚のこと、2年間という短い期間でしっかりと内科の勉強をしてください。全身疾患との関連は切り離すことが出来ません。またcommon diseaseの内服薬の名前と特徴については必ず勉強して下さい。
薬剤性疾患も多いです。

 3年目以降もやっぱり違うと思えば、変わることは簡単です。嫌なことをやって人生過ごすよりは、しんどくても楽しいことに時間を費やすほうが幸せだと思います。

2016年5月4日水曜日

見学に行くときはどこを見ればいいでしょうか?③

5つめは、研修医が楽しそうにしていること
 これは、いつも言うのですが、ラクをしていて楽しそうというわけでなく、「このまえ○○の症例を経験したー。焦ったよー」とか「△△の手技をやらせてもらえたよ」といった、医師1年目・2年目として成長を楽しんでいるような環境、そして少しきつくてもそれに耐えられる以上の経験を積めていると実感しているような研修医の先生方がいる病院はとてもいい病院かもしれませんね。これが一番かも。

 6つめは事務方が研修医への対応に積極的であること
 いい意味で協力体制があるというのはとてもいいことです。

なんでもかんでもお願いしていたわけではありませんが、私もほとんど家に帰れなかったため、税金のこと・事務的なこと・自動車関係など、自分でやらなくてもいいことは事務の方がやってくれていました・・・今思うととても申し訳ないですが、そうでもしないと時間がなかったんですよね・・・ありがとうございました。

見学に行くときはどこを見ればいいのでしょうか?②

3つめは、総合内科や救急総合診療科が充実していること
 初期研修の2年間、多くの研修医の先生方はcommon diseaseを学ぶはずです。また、紹介で受診された患者さんを診る機会よりも、「頭が痛い」「熱がある」「お腹が痛い」といった症状を訴えて来られる患者さんに対して、問診、診察をして、鑑別疾患を挙げ、適した検査を行い、診断する。または診断できなくても、危険な病気は除外をして、次回followをすることで病気の自然経過を経験していくと思います。そのチャンスが多いのは、総合内科や救急総合診療科であり、上級医から偏りのないfeedbackをもらえると思います。
 病院(受診)への窓口が一つとなっているのは患者さんにとっても、研修医にとってもとてもいいことだと思います。

4つめは、専門科の見学はあまり意味がない?

 3つめにリンクすることですが、例えば自分が将来進みたい科が消化器内科だとして、見学に行く病院が消化器内科がとても有名で症例数も多いから、見学のときに見てみたい。実習をしてみたいというのは、あまり勧めません。学生のうちに一度見ておくというのはいいかもしれませんが、初期研修のときには、偏りのない知識を身につけるとてもいい期間です。3年目以降になれば、自分が選択した科については、嫌でもたくさんどっぷりと浸かってられます。ですので、それよりも年間を通じて救急総合診療の勉強が出来るとか、内科の研修時間が長いので内科の研修体制が専門に偏らず、多岐にわたって見ることが出来るか。また指導してくれる医師がいるか。そこを確認する方がいいと思います。2年間を通じて一番接点があるのは、おそらく一つ上の先輩と救急総合診療科(年間を通じて救急当直がある場合)や総合内科医師だと思います。

2016年4月2日土曜日

見学に行くときどこを見ればいいのでしょうか?①

これもよく聞く質問です。
巷で有名な病院をとりあえず見学に申し込んでみたけど、
どこをみればいいのかわからない。
そういう悩みもよく聞きます。

一つの指標は、1年目の医師と2年目の医師の「差」を感じることではないでしょうか。
1年間でそれだけ成長する可能性があるということではないでしょうか。
逆に、1年目の医師か2年目の医師かよくわからない場合は、1年目のときから優秀でその病院で研修したからパワーアップしたという感じではないように思います。

1年目も優秀なのに2年目はさらに明らかな差を感じる。これがいい病院だと思います。

2つめは、屋根瓦方式であること
 先に述べたことに関連するかもしれませんが、どの分野でも、人に教える機会が多いとさらに知識が確実なものになったり、さらに勉強するものです。1年目の医師と2年目の医師がともに同じ現場で働くチャンスがある研修病院はいいかもしれませんね。

2016年3月31日木曜日

大学病院と市中病院どちらがいいのか?

大学病院で研修をしていない自分の意見としてお聞きください。

皆さんは様々な医師になられると思います。

常に最新の治療を発見し、行う医師

病気の新しい治療を研究・開発する医師

commonな疾患も含めて、手技も行いながら治療に携わる医師

皮膚科・耳鼻科・眼科・形成外科・泌尿器科といった外科系手技を学ぶ必要があるが市中では症例が少ない科に進む医師


将来進みたい科が決まっていない人は、
市中病院での研修を勧めます。
世の中の疾病構造を知ることができます。いわゆる「風邪」や、「腸炎」「偏頭痛」といった、commonな疾患をしっかりと診断することができる(検査をしなくても除外することができる)頭の構造を作ることが初期研修では求められていますし、そうあるべきだと思います。
そうした中で、たくさんの症例を経験する中で、自分の興味が2年間でどこへ向かっていくのか考えてみてはどうでしょうか。また、世の中で自分が役に立ちそうな科はなんだろうと考えることもできるのではないでしょうか。専門領域の研修を大学で学びたいと思えば、3年目からでも十分だと感じます。半年早く、カテーテルの手技をやった、内視鏡をやった、それぞれの科で手術に入ったとしても、10年のスパンで見てそれほど大したことではないと思います。それよりも、なぜ、その手技が必要なのか。その侵襲的な検査を選択しないといけないのかを「考える力」を養うことの方が大切ではないでしょうか。一朝一夕ではないかもしれませんが、その「考える力」がベースにしっかりあることが大前提で手技を学ぶ必要があると思います。

将来進みたい科が決まっている人は、
なおのこと市中病院での研修を勧めます。
唯一、家庭医やクリニックベースで将来働く。そのために後期研修もクリニックベースの研修プログラムに進みたい!と思っている人は、大学病院での研修を勧めます。
なぜなら、いろいろな科をローテーションしてそれぞれの専門科の医師から直接学ぶことができるのは初期研修医のときぐらいしかないからです。
 例えば、泌尿器科に進みたいと思っている人は、3年目以降症例をたくさん積むためにはやはり大学への入局が必要になると思います。症例が集まるからです。そこで稀な疾患も含めて病気に対するアプローチや手術の勉強が必要になります。そして、専門医試験に通ったあと、市中でcommonなものも診つつ、手術を行う医師となるか、細分化された領域での研究を進めていく医師となるか自分での選択となると思います。そうすると、泌尿器科領域以外の疾患に対する勉強はいつ学ぶか?
 初期の2年しかないのです。風邪、しかり腸炎。これらは確かに自然に治ることが多いので特に治療介入は必要ないかもしれませんが、むやみやたらに抗生剤を出すような不必要な医療介入をしてしまう医師になってしまうかもしれません。虫垂炎や心筋梗塞、胃潰瘍といったcommonだけど手術や、治療介入が必要な疾患を鑑別に挙げれないかもしれません。自分が泌尿器科の担当患者さんが、みぞおちあたりが痛いといったときに、消化器科へ紹介するのか循環器科に紹介する必要があるのか(心筋梗塞や狭心症を考慮して)考えられるかどうかは2年間の経験しかありません。回り道には絶対ならないと思いますので、考えてみてください。


 家庭医や総合診療科といった科に進みたいと思っている人は、
先ほどとは逆の立場で大学で行われている最先端の治療や研究について知っておくと将来の自分の診療にとても役に立つと思います。自分が普段診ている患者さんが、とても稀な疾患であった。紹介した先ではどのような検査や治療をするのか、イメージがわくと思います。また、どのような流れで診療が進むのかを患者さんに説明できるというのはとても大きいと思います。